家を建てる場所、暮らし続けられる場所が選別される時代へ
2026年9月、大和ハウス工業が国内の戸建住宅事業を再編し、23道県で新築戸建注文住宅の新規受注から撤退する方針を発表しました。
報道によると、今後は都市部へ営業機能を集約し、自由設計の注文住宅については建物価格5,000万円以上を一つの目安として受注を絞り込むとされています。さらに、1億円を超える高価格帯住宅の販売を増やしていく方針とも報じられています。
大和ハウスほどの大企業が、これまで全国で展開してきた戸建住宅事業を見直し、23道県から新規受注を撤退する。
これは単に、一つの住宅会社が営業エリアを縮小するという話ではないように思います。
今後の日本の住宅市場が、どのような方向へ進んでいくのか。その一端が表れた出来事ではないでしょうか。
なぜ、23道県から撤退するのでしょうか
大和ハウスは、今回の再編について、国内住宅事業の成長を加速させるための体制強化と説明しています。
もちろん、会社内部の詳しい判断について、外部からすべてを知ることはできません。
しかし背景には、日本の人口減少、新築住宅を購入する世帯の減少、建築資材や人件費の上昇など、住宅業界全体が抱えている問題があると考えられます。
日本の人口は、今後も減少していくと予測されています。
人口が減れば、家を必要とする人も減ります。加えて、建築費や土地代、生活費、住宅ローン金利が上がる一方で、一般家庭の所得が同じ勢いで増えているわけではありません。
「家を建てたい」という気持ちはあっても、実際には手が届かない。
そのような方が増えれば、住宅会社にとっても、これまでと同じ価格帯、同じ営業エリア、同じ事業規模を維持することが難しくなります。
少し厳しい言い方になりますが、住宅を必要とする人がいても、事業として十分な利益を確保できなければ、企業はその市場から撤退せざるを得ません。
「買えない人」が増える一方で、高価格帯市場は拡大する
今回の発表でもう一つ注目したいのが、建物価格5,000万円以上を目安として受注を絞り込み、1億円を超える住宅の販売を増やしていくという方向性です。
多くの方に住宅を販売するのではなく、購入できる資金力のある方へより高価格の商品を販売する。
言ってしまえば、より利益率の高い、儲けさせてくれる顧客に限定して営業をすると言う事です。
建築費や物価の上昇によって、これまで住宅を購入できていた層の中にも、予算的に購入が難しくなる方が出てきています。
その一方で、物価が上がっても資金に余裕があり、5,000万円、1億円という住宅を購入できる方もいます。
出せない方は、以前より出せなくなる。
出せる方は、これまで以上に高額な商品を購入する、完全に二極化してきていると言う事です。
給与や貯蓄、不動産価格と同じように、住宅を買う人の購買力についても差が広がっているのではないでしょうか。
企業として、利益を確保できるお客様や地域へ経営資源を集中させることは、ある意味では当然の判断です。
大企業は、利益を見込める市場へ移っていく
大和ハウスは、戸建住宅だけを販売している会社ではありません。
賃貸住宅、商業施設、物流施設、マンション、環境エネルギー、海外事業など、幅広い分野で事業を展開しています。
これだけの規模の企業になれば、事業の相手は日本人だけ、日本国内だけである必要はありません。
日本の地方で戸建住宅を一棟販売することに多くの人員や時間を使うより、都市部の高価格帯住宅、物流施設、商業施設、海外事業などへ経営資源を振り向けた方が、企業全体として成長できる。
そう判断すること自体は、民間企業として不思議なことではありません。
問題は、大手企業が採算性を理由に地域から撤退していくとき、その地域の住宅市場や暮らしを誰が支えるのかということです。
今回は23道県ですが、人口減少や建築費の上昇がさらに進めば、将来、もう一段階の事業再編が行われる可能性も否定できません。
もちろん、現時点で決まっているわけではありません。しかし、これからの住宅会社は「全国どこでも同じように家を売る」という経営を続けにくくなるのではないでしょうか。
不動産仲介でも、すでに店舗の集約が始まっています
この動きは、住宅を建てる会社だけに限ったものではありません。
不動産仲介大手の住友不動産販売、現在の社名では「住友不動産ステップ」も、全国の店舗網を大きく見直しています。
同社は、かつて全国に200店舗を超える直営の仲介店舗を展開していましたが、現在、公式サイトに掲載されている営業センターは全国148店舗となっています。
広島・岡山エリアについても完全に撤退したわけではありませんが、現在は両県の一部の主要店舗に営業機能が集約されています。
以前は安佐南区の中筋をはじめ、広島市内にも身近な場所に営業センターがありました。そのような地域の店舗が整理され、取引量や収益を見込める主要拠点へ人員や情報を集めていく流れになっています。
安佐南区の店舗も古くからあったので、私も何度か行ったことはありましたが、いざ同業者がいなくなると何だか寂しさを感じてしまいますね。
大和ハウスの注文住宅事業と、不動産仲介事業では、もちろん商売の仕組みが違いますが、根底にある構造はよく似ていると私は感じています。
不動産仲介会社は、売買が成立したときに初めて仲介手数料を受け取ることができます。
人口が減り、住宅の売買件数が少なくなっている地域で店舗を維持するためには、事務所の賃料、営業社員の人件費、広告費、車両費などを負担し続けなければなりません。
取り扱う不動産の価格が低ければ、同じ一件の契約でも受け取れる仲介手数料は少なくなります。
さらに、地方や郊外の不動産ほど、境界、高低差、擁壁、道路、相続、残置物、解体、再建築といった問題を抱えていることが多く、調査や売却に時間がかかります。
例えば、数百万円の空き家を一件売却する場合でも、現地確認や役所調査、契約書類の作成など、必要となる仕事が大きく減るわけではありません。
それでも、契約が成立しなければ仲介手数料は受け取れません。
一方、都市部で数千万円、あるいは1億円を超えるマンションや土地を取り扱えば、一件当たりの仲介手数料も大きくなります。人口が多く、不動産の流通量が多い地域であれば、次の案件も見込めます。
そう考えると、大手仲介会社が取引量の多い都市部や高価格帯の市場へ人員を集中させ、採算を確保しにくい地域の店舗を整理することは、企業経営としては合理的です。
つまり、大和ハウスが新築戸建注文住宅の営業地域を絞り、高価格帯住宅へ重点を移すことと、住友不動産販売が仲介店舗を集約していくことは、事業内容こそ違いますが、基本的には同じ方向を向いているように見えます。
人が集まる場所、取引が多い場所、不動産価格が高い場所へ、企業も人材も資金も集まっていく。
反対に、人口が減り、売買件数が少なく、不動産価格も低い地域からは、大手企業が少しずつ離れていく。
これは「その地域に不動産の悩みがなくなった」ということではありません。
むしろ地方ほど、空き家、相続、境界、老朽化、解体費、所有者不明土地といった難しい問題が増えていきます。
しかし、問題が増えることと、そこで商売として利益を出せることは別の話です。
手間がかかる一方で利益を確保しにくい地域から大手企業が撤退し、採算を見込める都市部へ集中する。この流れは、今後ほかの住宅会社や不動産会社にも広がっていく可能性があります。
大手が撤退した地域では、最終的にその地域を知る地元の不動産会社が、売却や相続、空き家の相談を引き受けることになります。
ただし、地元の不動産会社も民間企業です。
相談を受けるだけでは事業を維持できませんし、買主がいない不動産をすべて取引できるわけではありません。
大手企業の撤退は、地方の不動産会社にとって仕事が増えるという単純な話ではなく、これまで以上に難しく、採算を取りにくい不動産が地域に残されていくということでもあります。
東京に人が集まり、地方の中でも人が集まる場所は限られていく
今後は、東京をはじめとした大都市や、地方でも人と企業が集まる場所へ、さらに人口と資金が集中していくと考えられます。
地方都市の中でも、
- 駅やバス停に近い
- 平地で移動しやすい
- スーパーや病院、コンビニが近い
- 学校や職場へ通いやすい
- 災害リスクが比較的低い
- 道路が広く車を利用しやすい
といった利便性の高い場所へ人が集まり、それ以外の地域では人口減少がさらに進む可能性があります。
同じ広島県内、同じ広島市内、さらに同じ区内であっても、すべての地域が同じように維持されるとは限りません。
広島市安佐南区でも、平地や交通利便性の高い地域では住宅需要があります。一方で、坂道が多い、道路が狭い、公共交通機関が少ないといった地域では、今後ますます買主を見つけることが難しくなる可能性があります。
これからは「地方だから下がる」「都市部だから上がる」という単純な話ではなく、地方の中でも、より細かく地域が選別されていくのだと思います。
人が減れば、生活に必要な施設も維持できなくなる
人が減ると、最初に影響が表れやすいのは、スーパー、商店、病院、金融機関、公共交通機関などです。
利用する人が少なくなれば、民間企業は店舗や交通機関を維持できません。
それだけではありません。
これからは、道路、橋、トンネル、水道管などの公共インフラも一斉に老朽化していきます。人口が減り、税収や利用料金が減る中で、すべてのインフラを現在と同じ水準で維持し続けることは難しくなります。
明日すぐに道路や水道が使えなくなるという話ではありません。
しかし将来的には、どの道路や施設を優先して維持するのか、どの地域へ居住や公共サービスを集約するのかという選択を迫られるはずです。
場合によっては、利用者の少ない道路や橋、トンネル、上下水道などについて、廃止や統合、維持水準の見直しが議論されることも考えられます。
街は少しずつ中心部へ集約されていく。
広島県なら広島県の中で、市や町ならその市や町の中で、暮らしを維持しやすい場所へ人が集まっていく。
好むと好まざるとにかかわらず、社会を維持していくために、そうならざるを得ない時代が来るのかもしれません。
「よくここに、これだけの家を建てたな」と感じた住宅地
先日、とある山手にある住宅地を訪れました。
車を止め、周辺を歩いて見て回りました。景色は良いのですが急な坂道に住宅が並び、道路は小型車が一台通るのがやっとという場所です。
驚いたことに、そこにはかなりの数の住宅が建っていました。
言い方は悪いのですが、正直に言えば、
「よくここに、これだけの家を建てたな」
と思いました。
かつては、その場所にも家を必要とする人が大勢いたのでしょう。中心部では土地が足りず、山を切り開き、道路を造り、多くの住宅が建てられました。
しかし、歩いて見ているうちに、だんだん悲しい気持ちになってきました。
すでに多くの住宅が空き家となり、建物は傷み、緑のつるや草木に覆われていました。
かつて、ここで家族が暮らし、子どもたちの声が聞こえ、毎日の生活が営まれていたことが信じられないような状態です。
天気のよい青空の下で、古い建物が自然と一体化している光景は、まるでスタジオジブリの映画「天空の城ラピュタ」のようにも見えました。
「かつて、ここには人が住んでいた」
正直そんなように思ってしまいました。
映画の中で見る光景であれば美しいのかもしれません。しかし、現実の住宅地として目の前にすると、その印象はまったく違います。
これから日本のあちこちで、このような風景が増えていく、そう考えると心底ぞっとしました。
呉市の空き家と、広島県からの人口流出
これは、遠い将来だけの話ではありません。
呉市のホームページでは、市内の空き家は約2万7,960戸、空き家率は22.6%とされています。
空き家が増えると、建物の倒壊、火災、防犯、害虫、樹木の越境など、周辺住民の生活にも影響を及ぼします。
また、総務省の住民基本台帳人口移動報告では、2025年の日本人の都道府県間移動について、広島県は9,921人の転出超過となり、5年連続で全国最多と報じられました。
この数字は、日本人の都道府県間移動を集計したものであり、外国人を含む人口全体の増減と同じ意味ではありません。
それでも、若い世代を中心に県外へ人が流出している現状は、非常に重い問題です。
働く人、家を買う人、子どもを育てる人が減れば、住宅市場だけでなく、地域の商店、学校、医療、交通、そして自治体の財政にも影響します。
地域とともに事業を行っている私たち不動産会社にとっても、決して他人事ではありません。
不動産会社だけでは解決できない問題です
空き家を売りたいという相談を受けても、買いたい人がいなければ成立しません。
価格を下げれば必ず売れるとも限りません。
建物が傷み、解体費がかかり、道路が狭く、車が入れず、再建築や造成にも問題がある。そのうえ、周辺の生活利便施設も少なくなっている。
このような不動産は、売却価格をゼロに近づけても、引き取り手が見つからないことがあります。
弊社は全国の不動産フランチャイズに加盟しており、各地方の方々と話す機会も多く、最近耳にするのが、「不動産の有料取り引き」と言った言葉です。
我々の地域ではまだあまり耳にしませんが、売主様がお金を払って不動産会社なりに不動産を引き取ってもらう事のようです。家を売ったからお金をもらうのではなく、
どうしても処分できないから、お金を支払って引き取ってもらうと言う事なんです。
さらに、所有者が亡くなり、相続人が何人にも増え、連絡のつかない人が出てくれば、処分すること自体が難しくなります。
私たち不動産会社も、空き家の売却、活用、買取、解体など出来る限りのことは行います。
しかし、この問題は不動産業者だけで解決できる規模ではありません。
国や自治体が、住宅政策、相続制度、解体支援、公共交通、医療、福祉、インフラ整備、地域の集約化まで含めて取り組まなければならない問題です。
すでにさまざまな対策は行われていますが、人口減少と建物の老朽化は待ってくれません。
さらに踏み込んだ対策を、国を挙げて早急に進めなければ、将来取り返しのつかない状態になるのではないかと危惧しています。
今は売れる不動産でも、将来も売れるとは限りません
今回の大和ハウスの事業再編を見て、私は「大手住宅会社が撤退した」という話だけで終わらせてはいけないと感じました。
企業が採算性の高い地域や、高価格帯の商品へ集中するということは、その反対側に、住宅事業として成り立ちにくくなっている地域や価格帯があるということです。
そして、その変化はすでに始まっています。
現在住んでいる家や、将来相続する予定の不動産について、
「今すぐ売る予定はないから、まだ考えなくてもよい」
と思われる方も多いでしょう。
しかし、不動産は時間が経てば必ず価値が上がるものではありません。
人口が減り、地域の利便性が低下し、建物が傷み、相続関係が複雑になってからでは、選べる方法が少なくなります。
大切なのは、慌てて売ることではありません。
その不動産がある地域の人口、道路、坂道、公共交通、病院、買い物環境、災害リスク、周辺の空き家、実際の売買需要などを確認し、将来どのような選択肢があるのかを早めに把握しておくことです。
売れるうちに売るのか。
貸せるうちに貸すのか。
家族が使うのか。
建物を維持するのか。
解体するのか。
判断を先送りするほど、選択肢が狭くなる不動産もあります。
地域の変化を見ながら、早めに考えることが大切です
不動産の価値は、土地の面積や建物の築年数だけでは決まりません。
その地域に、これからも人が住み続けるのか。
道路や公共交通が維持されるのか。
病院や買い物施設が残るのか。
若い世代が家を買いたいと思う場所なのか。
これからは、こうした「地域が維持される力」まで見て、不動産を判断する必要があります。
全国的な統計や大手企業の動きを知ることも大切です。しかし、実際の不動産は、同じ市内でも、同じ町内でも、道路一本、坂道一つで状況が変わります。
だからこそ、地域を実際に歩き、現在の住宅需要や空き家の状況を知っている地元の不動産会社にできることがあります。
当社では、安佐南区を中心に、土地、戸建住宅、空き家、相続不動産などのご相談をお受けしています。
まだ売却すると決めていない段階でも構いません。
「将来、この家は売れるのだろうか」
「子どもに不動産を残しても負担にならないだろうか」
「空き家になる前に、何をしておけばよいのだろうか」
そのような疑問がありましたら、早めにご相談ください。
不動産の問題は、時間をかければ自然に解決するとは限りません。
まだ選択肢が残っているうちに、その不動産と地域の将来を考えておくことが、これまで以上に大切な時代になっていると思います。

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