※この記事の登場人物・会話・内容はフィクションです。実在の個人・団体とは一切関係ありません。
※ 2025 年 8 月 25 日 加筆・変更有り
■登場人物
田中:第一抵当権者(債権額1,000万円)
鈴木:第二抵当権者(債権額1,200万円)
高橋:第三抵当権者(債権額2,000万円)
■ストーリー:田中が下した決断とは?
「俺が順位を放棄すれば、高橋さんは助かるかもしれない……」
田中は、競売が決まった甲土地の状況を前に、ある決断をしようとしていた。
甲土地には3つの抵当権が設定されており、通常なら、第一順位の田中が最も優先的に1,000万円を回収できる。しかし、長年の付き合いのある高橋が困っていた。
「このままだと、高橋さんはほんの200万円しか回収できない……」
高橋の事業は資金繰りが厳しく、このままでは倒産しかねない状況だった。
田中は、自身の取り分が減るリスクを承知の上で、第三順位の高橋に対して順位を放棄するという決断を下したのだった。高橋に優先して配当されることで、少しでも多く資金を回収できるようにと考えたのだ。
■民法の規定による配当の仕組み
競売の結果、売却代金は2,400万円に決まった。
📌 順位放棄がなかった場合の配当額
通常の配当は以下の通り。
| 抵当権者 | 債権額 | 受取額 |
|---|---|---|
| 田中(1番) | 1,000万円 | 1,000万円 |
| 鈴木(2番) | 1,200万円 | 1,200万円 |
| 高橋(3番) | 2,000万円 | 200万円 |
しかし、田中が順位を放棄したため、以下のように計算し直される。
💡 実際の配当額の計算
順位放棄を考慮すると、鈴木の1,200万円をまず全額配分し、残りの1,200万円については、田中(1,000万円)と高橋(2,000万円)の債権額の割合(1:2)に応じて配分されることになります。
つまり、田中は1/3、高橋は2/3の割合で分ける形となり、それぞれ400万円・800万円を受け取ることになります。
| 抵当権者 | 債権額 | 配分割合 | 受取額 |
|---|---|---|---|
| 鈴木(最優先) | 1,200万円 | – | 1,200万円 |
| 田中(順位放棄) | 1,000万円 | 1/3 | 400万円 |
| 高橋(元3番) | 2,000万円 | 2/3 | 800万円 |
結果として、田中は600万円減額され、400万円しか受け取れなくなった。
■田中の本当の狙い
配当の結果を聞いた鈴木は驚いた。
「田中さん、あなたが順位を放棄しなければ、1,000万円受け取れたのに……なぜ?」
田中は落ち着いた表情で答えた。
「確かに俺は600万円を手放した。だけど、取引先の高橋さんが800万円を回収できれば、倒産を免れるかもしれない。彼が潰れれば、うちとの取引も止まる。そうなったら、回収どころかビジネスそのものが崩れるリスクもある。長い目で見れば、ここで譲る方が“得”なんだよ。」
鈴木は納得した。彼は意図的に順位放棄を行い、取引先である高橋を助ける決断をしたのだ。
そして高橋もまた、田中の決断に感謝し、今後のビジネスで恩を返していくことを心に誓った。
■順位放棄はリスクもあるが、使い方次第
今回、田中は順位放棄によって本来の回収額を減らしたが、信頼関係を守ることを優先した。
順位放棄とは、配当の優先順位だけを手放す行為であり、債権そのものを放棄するわけではありません。ただし、結果的に受け取れる金額が大きく減ることもあるため、リスクを十分に理解し、状況に応じて慎重に判断すべきです。
抵当権や競売の仕組みを正しく理解し、必要なら専門家に相談することをおすすめします。
🧩誤解しやすいポイント・Q&A
Q1. 順位放棄って、結局「順位が下がる」ってことなんですか?
厳密には違います。
順位放棄は、特定の相手(この場合第3順位の高橋)に配当の優先順位を譲る行為であって、法的な「順位」そのものを下げたり変更したりするものではありません。
ただし、結果的に後順位者と配当を分け合う形になるため、実務上は“順位が下がったような扱い”になります。
※ただし、さらに後ろの債権者(第4順位など)よりも下に回るわけではありません。
Q2. 高橋(第3順位)に順位を放棄したら、鈴木(第2順位)にも放棄したことになりますか?
いいえ、なりません。
順位放棄は、「誰に優先権を譲るか」を放棄者が指定するものであり、譲った相手だけに効力が生じます。
田中が「高橋に順位を譲る」と明示した場合、その効力は高橋だけに及び、鈴木には影響しません。
鈴木は順位2位のままで、通常どおり全額配当を受け取ります。
Q3. すべての後順位者に順位を放棄することはできますか?
はい、可能です。
田中が「後順位者全員に対して順位を放棄する」と明確に意思表示すれば、その時は、鈴木・高橋・もしいればその後の順位者にも影響が及びます。
ただしこれは、抵当権そのものを捨てる行為ではなく、順位による優先権だけを放棄するものであり、最後に配分が残っていれば、その額を受け取ることができます。
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