半数の盛り土で、対策がまだ取られていない
2021年7月、静岡県熱海市で大規模な土石流が発生しました。多くの家屋が飲み込まれ、人命も失われたこの災害は、「盛り土(もりど)」の危険性を全国に知らしめることになりました。
盛り土とは、山や斜面を削ったり谷を埋めたりして平らな土地を作る際に積まれた土のことです。適切に管理されていれば問題ありませんが、排水設備が不十分だったり、崩れ止めが不十分だったりすると、大雨や地震の際に崩落するリスクがあります。
熱海の災害を受けて国は全国規模の「盛り土総点検」を実施し、必要な対策が取られていない盛り土が約513カ所見つかりました。その後、どれだけ改善が進んだのか——総務省行政評価局が2025年7月から2026年4月にかけて31都府県を対象に調査したところ、驚く結果が出ました。
対策が取られていないまま放置されている盛り土が、513カ所のうち254カ所(約50%)にのぼっていたのです(出典:総務省行政評価局「盛土等による災害の防止に関する調査」2026年4月22日)。
その内訳は、対策済みが107カ所(21%)、着手中が27カ所(5%)、対策不要とされたものが125カ所(24%)です。なお、放置された254カ所のすべてが「今すぐ危険」というわけではありませんが、一部には災害リスクの高い盛り土も含まれているとされています。
なぜ対策が進まないのか
調査では、対策が進まない理由もあわせて明らかになりました。
自治体の担当者が挙げた理由として「業者に是正の意思がない」「造成した業者が死亡・行方不明で連絡手段がない」といったものがあります。つまり、危険な状態を作り出した当事者がすでに存在しないケースも少なくないのです。
また、自治体間の連携不足も問題として指摘されています。都道府県と市町村の間で情報が共有されておらず、対応が止まってしまった事例もあったとのことです。
行政が動けない間も、その土地のそばで人々の日常生活は続いています。
地方都市の住宅地が特に心配な理由
この問題が深刻になりやすいのは、山裾や丘陵地を大規模に造成した地方都市の住宅地です。高度経済成長期からバブル期にかけて、日本各地で山を切り開いた大型の宅地開発が行われました。当時の造成技術や規制の水準では、現在の基準からすると不十分なものも少なくありません。
地方都市では、こうした造成地に多くの戸建て住宅が建ち並んでいます。当時の開発業者がすでに存在しない場合も多く、誰が責任を持つのかが曖昧になりやすい構造があります。
さらに、地方では人口減少と高齢化が重なり、空き家や管理が行き届かない土地も増えています。行政側の対応人員も限られており、個別の盛り土への目が届きにくい状況があります。
法律は整備されたが、運用はこれから
熱海の土石流をきっかけに、2023年5月には「盛土規制法(宅地造成及び特定盛土等規制法)」が施行されました(出典:国土交通省「盛土規制法について」)。
この法律では、都道府県が危険性のある区域を「規制区域」として指定し、その区域内での盛り土を許可制にするとともに、土地の所有者にも安全な状態を維持する責任があることが明確化されました。罰則も強化され、違反には最大で懲役3年・罰金1,000万円(法人は3億円)が科されます。
また、不動産の売買においては、盛土規制法に基づく制限の内容が重要事項説明書に記載される対象となりました。つまり、規制区域内にある土地を売却する際には、その旨を買主に説明する義務が生じます。
ただし、多くの都道府県では規制区域の指定作業が進んでいる段階で、法律の本格運用は2025年度以降になっています。これから規制が具体化するにつれ、対象エリアの物件情報はより詳細に開示されるようになっていくでしょう。
今後、予想される3つの変化
① 規制区域の指定が進み、対象物件が明確になる
各都道府県が規制区域の指定を進めることで、「この土地は規制対象」という情報が不動産取引の場でより明確に扱われるようになります。対象エリアの物件は、買い手が慎重になる可能性があります。
② 土地所有者の責任がより問われるようになる
盛土規制法では、原因を作った業者だけでなく、現在の土地所有者にも安全維持の責任があることが明記されています。対策が必要と判断された場合、所有者に対して行政から指導や命令が来る可能性もゼロではありません。
③ 重要事項説明の内容が厚くなる
不動産取引時の重要事項説明において、盛り土や規制区域に関する情報がより詳しく開示されるようになります。買い手側の目が厳しくなるにつれ、該当エリアの物件は市場での評価に影響が出ることも考えられます。
「自分の土地は大丈夫か」を確認する方法
自分の家や土地が造成地にあるかどうか、あるいはリスクエリアに該当するかどうかを確認するには、いくつかの方法があります。
- 各都道府県や市区町村が公開している「大規模盛土造成地マップ」を確認する
- 国土交通省の「ハザードマップポータルサイト」で土砂災害リスクを確認する
- 自治体の窓口(都市計画課・建築指導課など)に問い合わせる
ただし、現時点では規制区域の指定が完了していない地域も多く、マップに載っていないからといって安全とは言い切れません。心配な場合は自治体や専門家に相談するのが確実です。
売却を考えているなら、早めに動くことが選択肢を広げる
今回の調査が示すのは、盛り土に関するリスク情報の「見える化」が今後着実に進んでいくということです。規制区域の指定が広がり、重要事項説明に盛り込まれる情報が増えるほど、買い手の判断材料は増えていきます。
もし、「傾斜地や造成地に家がある」「将来的に売却を考えている」という方がいれば、こうした流れが本格化する前に、一度今の物件の価値を把握しておくことは決して損ではありません。現状での査定額を知っておくと、今後の判断がぐっとしやすくなります。
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※本記事は公開情報をもとに作成しています。個別の物件・土地のリスク判断については、専門家や自治体窓口にご相談ください。
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